2024年3月26日の日本経済新聞の記事に『「求められる博士」へ改善要請 文科省、大学・産業界に』という見出しの記事がありました
この記事の要点を次の3つです
- 日本国内の博士号の取得者数は他の主要国の4割程度であり、日本国内の「博士離れ」は国際競争力・研究力低下に繋がるリスクがある
- 文部科学省は博士課程学生の生活・研究環境を改善することで博士人材を2040年に3倍に増やす計画を公表した
- 産官学が連携することで博士人材活躍の場を創出・拡大する
博士課程を目指している方や検討している方には明るいニュースですね
しかし、この記事の要点とは少し逸れるのですが、記事内には次のようにも書かれていました
- ”企業が大学院に求める改革として産学連携や課題解決型教育が6割に上り、カリキュラムと産業界の期待のズレが鮮明になっている”
産業界の期待のズレってなに??
この記事で言うところの産業界からの「期待のズレ」を解消しない限り、民間企業はいつまで経っても博士人材を欲しがりませんよね
博士人材を意図的に増やしたところで、「期待のズレ」を解消しない限り、博士ホルダーが世に溢れるだけ…
反対に、民間企業が欲しい博士人材になることができれば、他の博士ホルダーとの差別化ができ、より良い条件の仕事が見つけやすいのではないでしょうか?
そこで、アメリカ大学院でPhD取得後に日本国内の民間企業で働いているゆじろべえと一緒に「民間企業に求められる博士像」について「企業目線」で考えてみましょう
課題解決能力を持つ博士
日本経済新聞の記事にもありましたが、民間企業が博士に求めるスキルの1つは「課題解決能力」だと考えます
民間企業は博士人材に対して上司に指示された仕事を期限内に行うといった「作業遂行能力」だけを求めていません
「民間企業が抱えている問題」に対してベストな「解決策」を模索・実行し、成果を出すことを民間企業は博士人材に期待しています
つまり
課題の抽出 → 解決案の模索 → 解決案の実行 → 解決案実行の効果測定 → 解決案の効果の提示 → 解決案の考察と改善
これって研究と似ていませんか?
研究する時も、
研究課題の抽出 → 研究手法の模索 → 研究実行 → 研究結果の測定 → 研究結果の提示
→ 研究結果の考察と改善
の一連を考えてから研究を行いますよね
博士課程時代にこのような研究プロセスを1人で考えて組み立て、指導教官達からのレビューや批判などを潜り抜け、自身の研究をより良いものにするといったトレーニングを積んでいる方は「課題解決能力」を鍛えられている方です
博士課程修了後に企業就職しても、課題のテーマが変わるだけで、考え方は同じですので、「課題解決能力」を惜しむことなく発揮してください
今から博士を目指す方は決して指導教官に与えられた研究課題をこなすだけの博士を目指さないでください!!
指導教官に与えられた研究課題をこなすのは修士課程までです
博士課程では自身で研究課題を見つけるところから始まり、解決策を模索・実行し、研究結果を出すことを意識して行動に移すことで、民間企業が求める「課題解決能力」を鍛えることができます
専門知識を専門外の人にもわかりやすく伝える能力を持つ博士
民間企業が博士に求めるスキル2つ目は「専門知識を専門外の人にもわかりやすく伝える能力」だとゆじろべえは考えます
博士人材の方は3年以上かけて専門分野の研究に注力しているため、専門知識は確かに豊富だと思います
しかし、その豊富な専門知識を間違って活用してしまうと民間企業に求められていない博士になってしまうかもしれませんよ
例えば博士課程真っ最中の時を想像してください
研究室にいる方々は同じようなバックグラウンド・専門分野の知識を持っているため、研究室での会議中に専門用語で説明・議論しても何一つ問題ないですし、むしろ難しい専門用語を使った方が「この人賢いなぁ」と仲間から尊敬の眼差しで見られるかもしれません
しかし、民間企業はアカデミアとは違います!
民間企業では様々なバックグランドや専門知識を持った方達と一緒に1つのプロジェクトを進める機会がたくさんあります
例えば多種多様なバックグラウンドを持った方達が集まったチームでの会議中、あなたの専門分野に関する議題が上がったとします。博士ホルダーのあなたが得意分野の専門用語を使って淡々と話し出したら周りの方はどのように反応すると思いますか?
あなたが話し始めて1分も経たずに興味が削がれ、パソコンや携帯を操作し出してしまい、生産性のない時間だけが無駄に過ぎてしまう会議になってしまいます
どんなに素晴らしい知識やアイディアを持っていても、チームメンバーに伝わらなければ、知識やアイディアを持ってないのと同様です
反対に、専門知識を持っていない方でもわかりやすい言葉を用いて伝えることができれば、博士課程で培ったあなたの考えをチームメンバーに共有することができ、チーム内の知識の底上げに繋がります
多種多様なバックグラウンドを持った方達が集まったチームであなたの豊富な専門知識を最大限に活かすためにも、専門知識を専門外の人にもわかりやすく伝えられるコミュニケーション能力を身につけるのはいかがでしょうか
1つの分野に偏りすぎていない博士
「博士」は英語で「Doctor of Philosophy」と呼ばれるぐらいですから、博士人材は専門分野に対してある種「哲学的」な思考を持った方達であり、専門分野に特化した知識を持つ「スペシャリスト」だと言えます
しかし、1つの分野に特化し過ぎてしまうと、今度は逆に汎用性が低くなってしまい、民間企業からしてみると雇いにくい人材になってしまうリスクがあります
スペシャリティーを最大限に活かせる特有の役職を企業が設けていれば良いですが、民間企業がそのような役職を無数に設けることはできませんし、結局採用競争につながり民間企業で就職できない博士人材が増えてしまいます
民間企業側の問題は置いておいて、ここでは博士人材に何ができるかを考えてみましょう
ゆじろべえのアイディアの1つに「Interdisciplinary Research」があります
「Interdisciplinary」とは複数の異なる分野を併せ持ったというような意味があります
「Interdisciplinary Research」は複数の異なる分野の知識を用いて研究課題に挑む研究です
例えば、地球温暖化という研究課題に対して「Public Health」と「Business」の分野の知識を掛け合わせた研究などを「Interdisciplinary Research」と言います
「Interdisciplinary Research」を通して複数分野の知識を養うことで様々な役職で働けるといった汎用性が高くなりますし、分野の垣根を越えて生み出されるアイディアはとてもユニークで自身のブランディングにも繋がります
そのように他の博士人材にはない「オリジナルブランド」を持つことも、民間企業が博士人材に求める要素の1つかもしれません
おわりに
日本国内における博士課程の在り方や博士人材を取り巻く環境は次の数年で大きく変わるでしょう
博士の目標は「良い仕事に就く」ことだけではないですが、より多くの博士人材が研究機関や国・地方自治体だけではなく民間企業でも力を発揮できれば、よりよい社会を創ることができるかもしれません
民間企業に博士人材をもっと受け入れてもらうためにも、民間企業が求める「博士像」についてもっと考えて話し合う必要があるとゆじろべえは思います
コメント